HPで管理するのが色々と面倒になってきたので、 とりあえず作成。
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「5時間連続で狩りとか、
お前は無理をしないという意味を理解しているのか!」
11時頃、狩り場に到着してから16時に洞窟をでるまで、
大した休憩もなく戦い続けたと聞いて、鉄火が怒鳴る。
彼の記憶が正しければ、
確かに昨日、紅玲は無理をせず命大事にの要請を了承し、
信憑性を疑われたことに、心外を示していたはずだ。
しかし、指摘されても当人にあまり反省する様子はない。
悪びれることなくしゃあしゃあと主張する。
「いや、久しぶりに行ったらずいぶん寂れてて、
魔物が溜まって生半可な冒険者が、
気軽にいける場所じゃなくなっててさ。
知ったからにはそのままにしておけないし、
端から退治してたら、こんな時間になっちゃって。」
大概の魔物はテリトリーを持っており、
土地の魔力に捕らわれる不死者の類は、
それこそ一定範囲を出ることはないが、
群を成すとろくな事が起こらないのも道理だ。
紅玲が言うようにそのような魔物溜まりを見つけたら、
出来るだけ解消するのが公式冒険者の義務ではあるが、
さりとて世の中には限度がある。
長時間続いた戦闘に寄る精神及び肉体疲労で、
ふひょひょとおかしな笑い方をしていることからして、
オーバーワークは明らかであり、
ギルドメンバーの安易に命を危険にさらすような行為を、
黙って見過ごすわけにはいかない。
しかし、鉄火では分が悪いと判断したノエルが、
お説教を引き継ぐ。
「てかさ、真面目な話し、クーさん無茶すぎるよ。
仕事に行くのはまだしも、具合悪いんでしょ?
本調子じゃないのに、なんでそんなことしたのさ。」
「いや、臨時収入がほしくて。」
本気で仲間の無事と体調を心配する友達にまで、
適当な態度はとれなかったのか、
大人しく答えた紅玲にノエルは更に叱咤を飛ばした。
「だからって、
一度の狩りで纏めて稼がなくても良いでしょ!
言ってくれればテツさんやマツリちゃんは勿論、
俺だってつきあうし!
お互いを頼りにする、協力しあうって、
そういうことじゃないの!?」
全く、何のためのギルド、
何のためのメンバーだと思っているのか。
冒険者の個人ギルドは安全且つ無理のない環境を、
楽に揃えるために結成されるものであり、
互いの立場を尊重し協力しあう、仲間の集いのはずだ。
助け合える相手がすぐ側いるのに、
わざわざ少数且つ短時間で大量の魔物と対峙するなど、
危険を冒さなくてもいいだろう。
ノエルが掲げた正論に反論しがたかったのか、
紅玲はもにょもにょと言い訳した。
「いや、うちだって、そんなつもりはなかったよ?
大金がいる訳じゃないしさ。」
予定ではお昼過ぎには帰るつもりだったらしい。
紅玲としてもキィと気軽に美味しい物が食べられるよう、
ちょっとお小遣いが欲しかっただけで、
無理をする気は全くなかったのだ。
「でも、予想外の魔物の量と、
久しぶりの本領発揮でテンション上がっちゃって、
気がついたら15時過ぎてたっていうか・・・」
困ったように眉根を寄せながら、
よくあることだよね?と同意を求められ、
ノエルは即行で全くありえないと首を真横に振った。
紅玲の戦闘スタイルは、
防御と回復を主とする白魔導士の癖して、範囲攻撃魔法特化型。
その高魔力と高速詠唱は本来パーティーの補助ではなく、
敵を打ちのめすためにあるが、
実際に火力を求められる機会は少ない。
彼女にメンバーが求めるのが本来の用途をはずれた、
一般の白魔法使いの職務のみなのは仕方がないにしても、
フラストレーションは溜まるだろうし、
久しぶりに己の能力をフルに使えるとなれば、
そりゃテンションも上がるだろう。
しかし、魔物相手に打って走って守っての、
5時間連続勤務はない。どう考えてもない。
「途中で辛くなかったの?」
「うん、むしろ久しぶりに生きてるって感じがした。」
「だめだ、このワーカーホリック。」
会話を重ねるごとに深まる絶望を、
ノエルは溜息と共に吐き出した。
結局、良くも悪くも彼女は規格外なのである。
いくら上級職と言っても普通、一介の白魔導士は、
病を押し乳幼児を連れて宛てもなく母国を出奔しないし、
魔王に目を付けられて弟子として迎え入れられないし、
大金稼いで養子の進路を確保した後に、
倒れて行方不明になどならないのだ。
もう、どうにもならんとノエルは鉄火と視線で語り、
揃って彼方に目をやった。
反面、紅玲は飄々としたもので、
元カレと友達が表情と生気を無くしているというのに、
更にとんでもないことを言い出した。
「でも、確かに休憩はもっと入れるべきだったね。
いつの間にか判断力が落ちてたみたいで、
気がついたら最深部で洞窟のボス、
魔王セイロンにスタッフぶち込んでたわー」
「「危っねえ!!!」」
さらりと何でもない事のように告げられた内容に、
横で苛々ハラハラしていたポールと祀が同時に叫ぶ。
魔王の称号を持つ死者の帝王に、
たった二人で喧嘩を売るとは何事か。
何故、魔王が“王”と呼ばれるのか。
それは他の魔物と比較にならない力を持つからだ。
「なにがどうなって、
そんな無茶苦茶をやらかしたんすか!?」
「あり得ないですよ、クレイさん!!」
「ったって、出会っちゃったもんは仕様がないでしょう。
久しぶりに会ったけど、あのじいさん、
相変わらず死霊召還の量とスピードが半端ないわ。」
叫ぶ祀とポールに不可抗力を主張する紅玲の足下で、
うずくまったままのスタンが叫ぶ。
「怖かった! クーさ、当たり前のように、
特攻すんだもん! 怖かった!」
特攻しておいて、仕様がないとはこれ如何に。
「スタンお兄ちゃん、かわいそうだねえ。
こわかったんだねえ。」
最早何も言えない祀とポールを余所に、
状況をよく分かっていないながらも、
キィが一生懸命大好きなお兄ちゃんを慰める。
「でも、じじはなにもしないよ。
きいたんもやだけど、じじがこわいのは顔だけだよ。」
「いや、きいたんと同じ態度は、
俺らは取って貰えないし、そういう問題でもないし。」
魔王の娘な幼児が何を言っているかは、
あまり考えないようにしながら、
ノエルは表情をなくしたまま、宣言する。
「兎も角、クーさんはもう、狩り行っちゃ駄目。
あと、ギルド会議にかけるから。
フェイさんにも言うからね。」
いい加減、この流れは断ち切らねば駄目だ。
自身の裁量の中で、できるだけ冷静に、
最も厳しい判決を下したノエルの気も知らず、
紅玲は暢気に了承する。
「えー 別にいいけど。」
「ひいてはカオスさんやクルトさん、
誰よりユーリさんに言いつけるからね!!」
「あ、ごめんなさい。もうしません。」
ギルドに不利益を及ぼした風紀違反者として、
懲罰を検討すると宣告されて尚、
堪えた様子がない紅玲にノエルは怒鳴り、
師匠や友人の名を出されて即座に謝ったあたり、
流石に判断力が戻ってきたらしい。
バリバリと頭をかいて、ようやく真面目な顔で、
隻眼の白魔導士は謝った。
「まあ、実際、今回の件はやりすぎました。
スーさんにも無理させたし、鉄にも心配かけた。
ごめんなさい。反省します。
しばらく冒険者としての活動は控え、
家事勤務のみに殉じながら、
ギルド会議の判決を待ちたいと思います。」
「それ、普段の生活とどう違うんだ?」
「特には?」
己が非を認めて、反省を口にするのに、
騙されてはならない。
紅玲がいくら反省しても、謹慎しても、
鉄火の指摘通り具体的なダメージになりえないのである。
結局、今後ギルド会議の審判に掛けても、
結果は大きく変わらないであろうことも目に見えており、
当人とキィ以外の全員が己の無力を噛みしめた。
それぞれ無言でやるせなさを語る彼らの気持ちを知らず、
キィが取り合えず理解したところだけを聞く。
「おねえちゃん、もう、はたらかないの?」
お留守番はおしまいかと尋ねる幼児を抱き上げて、
紅玲は事も無げに頷いた。
「うん、もう沢山稼いだからね。
それに皆にも心配かけちゃったし、もうやらないよ。
また、明日から一緒にいようね。」
経過はともあれ、今日の仕事で懐は十分以上に潤った。
冒険者家業は危険なだけ、儲かるのである。
「よかったねえ。」
ずっと一緒と聞いて、にこにこと無邪気に喜ぶキィに、
紅玲も満面の笑顔で応えた。
「本当だよ。これもきいたんが、
お利口にお留守番してくれたおかげだよ。」
「きいたん、おりこう? きいたん、おねえちゃん!」
誉められて、キィは心底うれしそうに笑い、
二人の会話はとんとん進む。
「うん、お利口、お利口。
お利口さんにはご褒美を出さないとね。
だから、明日はケーキ食べ放題にいこう!」
「ケーキ? まかろんもでる?」
「マカロンもでる、お高いところに行くよ!
出血大サービスだよ!」
「まかろん!」
手を取り合って喜びあうその様は、
平和であり、ほほえましくもある。
だがしかし。
ぼそりと祀が呟く。
「反省ともう繰り返さないと言質をとり、
平和に終わったのに、安心できる要素が、
欠片も感じられないのは何故かっすね。」
今回は、終わった。確かに今回は終わったが。
根本的な問題が解決していない以上、
また、なんかある気がする。
っていうか、あの人、何時己の体調と状況を考慮して、
周囲を頼りにするの?
「テツさん、何とかしてくださいよ、真面目な話。」
「んだ。」
「・・・・・・。」
「無理言ったら駄目だよ、ポール君もスーさんも。」
真顔で改善を求めるポールとスタンに、
鉄火は無言を貫き、ノエルが窘める。
現実問題、可能か否かは兎も角として、
誰か早く何とかしてほしい。